研修が必修になった
――先生は今年4月、同じ東葛病院の谷川智行先生と共著で『研修医』という本を出版されました。じつは私、マンガ『ブラックジャックによろしく』のファンで、主人公の研修医・斉藤英二郎の悪戦苦闘ぶりとダブらせながら、一気にこの本を読みました。本を出そうと思われた動機は何だったんでしょうか。
★直接の動機は今年4月から医師の卒後研修(正式には医師卒後初期臨床研修)が大きく変わったことです。これまで研修は「医師法」の中で「努力義務」と定められていたのですが、それが必修になったのです。出版社から「研修医の姿を世に広く紹介するような本を出したい」という話があり、谷川さんと相談をして、「研修制度を考える中で、どのような医療をつくっていくのか、どんな医師を育てていくのかを一緒に考えていけるような本を出したい」となったわけです。
医学生が大学生活で描く医師像というのは漠然としたものでしかありません。医師国家試験に合格して研修医になって初めて、リアルな現実と向き合う。『ブラックジャックによろしく』の主人公が「医者って一体、なんなんだ?」と苦悩するように、患者さんの苦しみや痛みを目の当たりにして、どうしたらいいか、何ができるのかと悩む。この研修医時代は「どういう医者になるのか」を考えるもっとも大事な時期です。
――この本は3章から成っていて、第1章は日本の医者はどうつくられるか、第2章は医学界・医療界の第一線で活躍されている3人の方のインタビュー記事、第3章は座談会という構成です。それぞれ興味深かったのですが、第2章のインタビューがまた圧巻でした。人選はどうやって?
★林成之先生は「脳低温療法」という画期的な治療法で、従来は助からなかった患者さんを大勢救ってこられた、脳外科の分野では世界に先駆けた研究をされておられる先生です。面識はなかったんですが、臓器移植法の論議のとき、林先生は反対の立場でいろいろな発言をされました。脳死の基準で行くと「脳死」と判定される患者さんでも、脳低温療法を行うことで脳が回復し、社会復帰を実現できた人もいます。その治療の道を閉ざすことになると発言されていて、それが強く印象に残っていました。
松村理司(ルビ・ただし)先生は、舞鶴市民病院という小規模の病院でユニークな研修指導をされてきた方です。先生は「大リーガー医」と呼んでいますが、アメリカから全米に名を馳せるような医師を招へいして臨床力を底上げし、教育もするという方法です。松村先生とは学生時代から面識がありました。ぼくも谷川さんも医学連(全日本医学生自治会連合)の委員長をやりました。研修問題については医学連が運動として取り組んできており、松村先生に講演をお願いしたりしていたんです。
板井八重子先生は長年、水俣病に苦しむ患者さんと共に闘ってこられた方で、地域に張りついて民医連医療を実践しておられる先生です。インタビューの中で「医者は、患者さんとその背後にある現実に対し、相手の立場に立って謙虚に向き合うべきです」と語っておられますが、この意味するところを知ってもらいたいと思ったのです。
どういう医者になりたいかを考えるとき、先輩の生きざまを知ることはとても大切なことです。3人とも示唆に富んだいいお話が聞けたと思います。
連帯して新しい運動を
――今回の改革のポイントを教えてください。
★医師の初期研修を制度として国が定めたことは大きな前進だと思います。日本の研修の問題点は大きく3つありました。それに添って、今回の改革のポイントを説明したいと思います。
1 身分・経済の保障
98年に起きた関西医大の研修医の過労死はショッキングな事件でした。多くの研修医は週に100時間前後という苛酷な勤務をしているにもかかわらず、給料は私立大では無給に近い大学が多いんです。これでは当然生活していけず、親に仕送りをしてもらうか、当直アルバイトに奔走しなければいけないはめになる。研修医は勉強のために病院にいるのであって、労働者ではないというわけです。
今回の必修化では、「研修医は労働者である」ことを明確にし、国が一定の経済保障をすることになりました。もちろん、東葛病院をはじめ民医連では、研修医の給料保障はきちんと行ってきました。
2 研修プログラムが制度化
従来の卒後研修では、研修医の多くが大学病院の医局に入局してその科の専門的診療を学ぶという方法でした。これだと、その科の専門的知識は身につきますが、医師としての基本的な能力という点では不十分でした。今回の改革ではこれを改め、「プライマリ・ケアの基本的診療能力を身につける」ことが目標の一つとされ、さまざまな診療科をローテーションすることが求められています。それから基本的な診察法、基本的手技が明確にされ義務づけられました。
プライマリ・ケアの重視は研修の場がより地域に広がることを意味しますので、これは大きな前進だといえます。
3 一定の指導医要件が示された
これまでは指導医はボランティアで研修指導をしていて、多忙な業務の中で研修医の面倒をみなければならず、その負担は大変なものでした。今回の改革では、指導医をつけることが義務化され、指導医の資格についても、「5年以上の臨床経験」「指導方法等に関する講習会を受けていること」が条件とされました。
そのほかに、研修病院を決める方法としてコンピューターによる「マッチング制度」が導入されました。これは、学生が自分の行きたい大学をランクづけし、病院側も採用したい学生をランクづけし、そこでマッチングしたら決まりというシステムです。このマッチングによって、これまでは大学病院での研修が8割を占めていたのが今年度は6割に減り、4割が地域の研修指定病院で研修することになりました。日本の医学界の人事・人脈は圧倒的に大学病院の医局に牛耳られていますから、これまでは地域に出ることができにくかった。マッチング制度自体の問題はあるにしても、地域の病院に出やすくなったことは確かです。
――今後の課題は?
★今後は研修の中身をどう充実させていくかが課題ですね。正しく研修がなされているかをチェックし、研修医に不利益がかからないようにする第三者機能評価機関をつくっていく必要もあります。
また、研修プログラムを良くしていくためには、研修医は教わるという受身の存在ではなく、自身で考え問題提起していくことが大事です。1950年代には研修医の「インターン連合」があったんですが、現在は研修医の全国組織はありません。研修医同士が連帯して、日本の研修全体の水準を底上げしていくことが求められます。
それから、医学生運動もとても重要です。医学生はカリキュラムの過密化の中で多忙になり、サークル活動さえ厳しくなっています。それでも、今回の研修問題ではインターネットを活用した署名運動を展開し、制度改革の大きな力になりました。
医学生運動にしろ研修医の運動にしろ、連帯して新しい運動をつくっていくことが重要だと思います。
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